2005年9月


見上げたオブジェは、リングと球体が一緒にねじり上げられたような形をしていた。
しかも、オブジェにはいくつかの四角い穴が開いている。
入れればいいのだろうか。

私は手帳のあるページを開いて、目の前にある入れ口に入れようとした。
どうしよう。これを入れてしまっていいのだろうか。
いや、いい。知ってしまったのだから。
やらずにはいられない、ここでいつまでも私を続けるのは自信がない。
ゆっくりと確実に、真っ白な手帳を入れ口に運ぶ。

「にゃあ」
一声鳴いて、レニーが私の手から手帳を奪った。
興味があるように匂いをかぎ、引っ掻いている。
白い紙に引っ掻き傷と汚れが付いていく。
レニーがもう一度くわえようとすると、紙が二三枚同時に破れた。
レニーはそのまま一番低いところにある入れ口に、紙を突っ込んだ。
レニーは私の前から消えた。クラインと同じように。
そしてオブジェまでもが薄くなり、触れることが出来なくなった。

深くため息をつくと、しつこくロシア紅茶の香りがした。
少し懐かしくなった。

私は手帳を拾って、少しめくってみた。
一つの写真がそこに映っていた。
どこか見覚えのある写真。
あのとき、ほんのちらりとだけ見たクラインの本。
左端にレニーがいる。
レニーはあそこへ行ったらしい。
そういえば、映っているものはどことなく見覚えがあるような気がする。

私は少し歩いた。
いつの間にか、私は家に帰り着いていた。
手を伸ばし、ドアのノブを回そうとしてふと手を止めた。
今から「一日利き手を使わないキャンペーン」をしよう。
私は逆の手でノブを回した。

家の中は、出てきたときよりもずいぶん静かだった。
父も母も家にはいない。もちろん弟も。
私は自分の部屋に向かうため、階段を上った。
何も変わらなかった。
壁も床も、おそらくは付いている汚れさえさっきと同じだろう。

私は私の部屋の前に立った。
私の部屋のドアには、私の知らない切れ込みが入っていた。
私は手帳を取り出した。
あらためて、見てみても何もかかれてはいない。
写真を見てみようと数ページめくった。

ふと視線に入ったのは、床に落ちている写真。
もう取る必要もないのだと、なぜかそう感じた。

今度はためらうこともなく、白紙のページを開いて切り込みに差し込んだ。
カチリと音がして、勝手に戸が開いた。

私は部屋に入った。
そこにはいつもと変わらない私の部屋があった。

窓を開けて、ふと思いついた。
友達に手紙を書こう。
私は二番目のポストでないと落ち着かない。

部屋を出ると足下に、手帳を見つけた。
少しだけめくると、真っ白なページの中に二三枚傷の入った部分を見つけた。
私は弟にあげようと思い、ドアをノックした。
「クライン」

階下で母の声がした。
父がそれに答えている。
弟は小さなオブジェを手に、部屋から出てきた。
「お姉ちゃん、ちょっと失敗したみたいだからもう一回やり直さなきゃ」
ドアの向こうにいくつかの粘土の塊が見えた。

ともかく私は手紙を出しに行きたかった。
手紙には、クラインが考えた謎の言葉がつづってある。

 ここはもう真実ではない。真実ではいられない。
私は焦ることなくそう考えていた。
ロシア紅茶の味は素っ気なくて、如何にも非現実の味がした。

 クラインから貰った手帳の中には、何も書かれていなかった。
だからといって、自分で埋めるべきものでもない。
既に、白紙の手帳から私はヒントを得ている。
 足元でレニーが、にゃあと鳴いた。

 出て行かなくてはならない。少なくともこの家から。
玄関へ向かうと、父が立っていた。
「行くのかい、パメラ」
「うん」
 父には何も分からないだろうと思っていたのに、
掛けられた言葉は私の何かを上回ったものだった。
暫く、二人で見つめ合う。
「リーリアには?」
「会わなかった。でも手紙は置いておいたから」
「そうか」
 本当に必要な会話ではないと、どちらもが思っていた。
心から言いたいことは、何時だって言えない。
「ねえ、お父さん」
「何かな?」
 私達の家族は、現実に戻れば人として扱われないかもしれない。
そう、だって私達はあの世界では死人も同じだから。
「私を愛してる?」
「勿論だよ」
 父の視線に、設定にない愛情を感じる。
それはクラインの、せめてもの贈り物なのだろうか。
 プログラムで補強されていても、父は父だった。
家族という設定が事実か虚構かは、ともかく。
「じゃあ、クラインのことは?」
 彼は口を開いた。
 その答えは、私の期待していたものだった。

 家を出て、歩く。歩き続ける。
 弟は、私に家族を任せたも同然だった。
しかしそれで納得しないだろうことも知っていて、
手帳まで渡していなくなったのだ。
「ずるいなぁ、クライン」
 苦笑して、ポケットから手帳を取り出す。
何だかずっしりと重い気がした。
「でも、楽しかったでしょ?」
 私の声に、弟のそれが重なったように聞こえた。
 ついてきていたレニーが、
不思議そうにそんな私を見ているのを、知っていた。

 止まったり歩いたりを続けて、
私はようやく目的の地に辿り着いた。
手帳を開く準備をする。
 そして、毅然とそのオブジェを見上げた。

彼の手が私の手のひらに触れた瞬間、私の頭の中で何かが爆ぜた。
脳内で閃光が迸り、光が視界の全てを白に塗り替える。
私はいくつかの設定されていない感情が全身になじんでいくのを感じた。

「私は誰なの?」
「お姉ちゃんはお姉ちゃんだよ。おみやげでわかっただろう?」

確かに私は理解した。
この世界の理、試練の意味、クラインの存在。
しかし、私という存在を理解するまでには至らなかった。

「私は誰なの?」

私は同じ問いを繰り返した。
クラインは呆れたように嘆息しながら首を振った。

「いきなり答えを求めてはダメだ。何事も小さな努力の積み重ねだよ。
さあ、お姉ちゃんは何を知ったんだ? そこからはじめようじゃないか」

クラインの言葉を受けて、私は言葉を選びながら少しずつ言葉を紡いだ。

「この世界は仮想現実。本当の世界じゃない」
「そう。でも、それを知らなければこの世界はお姉ちゃんにとって唯一の現実だったはずだ」
「でも、知ってしまったからにはここは現実じゃない」
「そうだね」

そう言ってクラインはとても哀しそうな顔をした。
それはまるで雨に濡れた捨て犬のようだ。
飼い主に幸せを運んでいたはずが、気付けば雨の中に独りぼっち。
クラインの表情にはそんな孤独を感じた。

「私たちには実体がない。ただの情報なのね」
「でも、お姉ちゃんはお姉ちゃんだ。
お姉ちゃんの心、思考は誰のものでもなく、お姉ちゃんのものだ」
「それは、設定が作ったものではないの?」
「設定は設定でしかない。その設定の中で動くのはお姉ちゃん自身だ」

私たちはこの仮想現実で、設定通りに生きていた。
要はプログラムされたキャラクタであったはずだ。
他の家族からどことなく変だと言われるのはそういう設定だからだろう。
母の動作が機械のように思えたのも、それがプログラムされた動きだからだろう。
設定したのはクラインのはずだ。
どうしてこんな設定にしたのだろうか。
それは彼のみぞ知るといったところか。

「お姉ちゃん、これじゃ、30点だよ。赤点ではないけれど、とても及第点をあげるわけにはいかないよ」

考え込む私を見て、クラインが口を開いた。

「それじゃ、補習をしてよ。何でクラインは自分のことを忘れていたの?」
「それは、現実世界で大きな地震が起こったために、ネットワークが切断されたからだ。
ネットワークが切断されることなんて良くある。そのための試練だ」

試練とは現実世界への戻るためのプロセスなのだ。
私が3番目のポストから出した手紙の返事を受け取ること、それが彼の試練だった。
彼がログインすると、私は3番目のポストに手紙を投函する。
そういう設定だ。
返事が返ってくるタイミングはあらかじめ決められているのだろう。
そうすることで、何らかのトラブルが起きて記憶を失っていても、仮想現実が無事ならば帰ってくることができる。
今思えば、何故手紙を出したのか、誰に出したのか、まったく思い出せない。

「どうして、お姉ちゃんたちが仮想現実に封印されたか知りたくないか?
そして、現実に戻りたいとは思わないか? お姉ちゃんにはそれができる可能性がある
だからこそ、僕はお姉ちゃんの設定を解放したんだ」

私は答えられなかった。
さっきクラインは、知らなければこの世界は私にとって唯一の現実だったはずだと言った。
知ることで世界が変わってしまったのだ。
私は知ることに恐怖を覚えてしまった。

「どっちにしても、これはいつか必要になる。持っておいてよ」

クラインは私に小さな手帳を手渡した。

「それじゃ、僕はもう行くね」

クラインは消えた。忽然と。煙のように。まるではじめから存在していなかったかのように。
何の感情も抱く間もなく、不意に部屋の扉が開かれ、父が顔をだした。

「あのね、ノックをするのが最低限の礼儀だよ」

私はクラインの真似をした。

「パメラ、こんな空き部屋で何をしているんだ。早くロシア紅茶を飲もうじゃないか」

空き部屋?
そうか、本当にクラインははじめからいなかったことになってしまったんだね。
もう二度とクラインと出会うことはないのだろうな。
私はぼんやりとそう思った。

父の目に浮かんでいた三日月形の優しい光が、今は半月形になっていた。
これは、何かが起こる前兆だ。
何が起ころうとしているのだろうか。
私はクラインから貰った手帳をポケットにしまい、父に続いてリビングに向かった。

クラインが突然倒れてから3日目。
「今日はロシア紅茶をみんなで飲む日だ。クラインを起こしてきてくれないかい?」と父に頼まれた。
父の目には三日月形の優しい光が浮かんでいた。
これは、なにか良いことが起こる前兆だ。少なくとも家族には。

クラインの部屋に向かう途中で、この3日を振り返ることにした。
クラインが起きたら説明しなくてはならないだろうから。

3日前の夕食の時、倒れているクラインが私に発見された。
手には便箋。封筒は机の上に置かれていた。
握られていた便箋は白紙だった。クラインの手も同じくらいに白くなっていた。
私はとりあえず父と母を呼びに行った。
父と母は駆けつけると驚かなかった。母が一人でらくらくとクラインをベッドに寝かせた。
母がクラインの手を交差させている間に、父は突然現れたレニーと私にこう説明した。
「クラインは今試練を受けているんだ。だから心配することはない。」
5分後には、クラインを抜いた夕食が始まった。

私はよくわからなかった。
隣家のアニスとはあまりに違うからだ。
アニスの試練とは木に吊るされることだ。
一時期、警察がきてアニス一家は事情聴取を繰り返し取られたらしいが今も毎週末に続けている。
それに比べて、クラインはただ眠っているだけのようにみえる。
これが同じものとは思えない。
しかし、理解できなくても認識と予想はできる。
クラインは試練を受けている。
そして試練とはクラインの出生の秘密に繋がることなのだろう。
なら、私ができることは手を出さないことだけだ。
そう思って私は、3日間クラインの部屋に向かって1日3回毎日お祈りをささげた。
お祈りはオリジナルのもので、スーフィズムのメフレビー教団を参考した。

整理が付いたところで、クラインの部屋の扉に到着した。
コンコン。
最低限の礼儀を実行して、部屋の中に入った。

「あのね、返事があるまで入らないのが礼儀だよ。」

クラインは起きていた。
きちんと着替えをして、扉と向かい合って椅子に座っていた。

「ロシア紅茶を飲むんだって。」
「うん。わかった。」
「出生の秘密、わかった?」
「うん。わかった。」

そう、よかったね。

そう言いたかったのに。

クラインの返事を聞いたとき、悔しいような羨ましいような気持ちが同時に発生し、口を閉ざした。
生まれたのだ。設定されていない感情が。

そんな感情、必要ない。

自覚してから数秒遅れて、誰かの声が頭に響いた。
その誰かを確かめようとしたとき、手をつかまれた。
クラインに。

「お姉ちゃん。おみやげだよ。」

クラインの手が、私の手のひらに重なった。

世の中は、分からないことばかりだ。
ちょうど僕という存在がいるように。

僕はぼんやりと、心霊写真ばかり載った本を眺めていた。
この本は、近くの本屋さんの隅っこで売られていた。
表紙が物々しいくせに、中はそんなに恐い写真を載っていない。
僕はその本から記憶を探していた。
たいていは単なる光の加減で偶然に人の顔が写りこんだものや意図的に作られた偽物でうんざりする。
でもたまに本物と思える写真がある。
例えば今開いているページなんかそうだ。
どこかの田舎で撮られた写真で、一人の女の人が大きな湖と緑豊かな山を背にして立っている。
この写真がなぜ心霊写真かというと、彼女の左手に覆い被さるように彼女の手じゃないたくさんの手が、彼女と握手しているからだ。
この本の解説にはこう書かれている。
『これは湖で亡くなった水難事故にあった被害者の霊が、彼女を湖に引き込もうとしている』
これは全くの嘘だ。
この写真から伝わるのは、もっと暖かい記憶。周りの人に優しくされていた過去、たくさんの人の手によって育てられた事実。
この記憶が彼女からこぼれ落ちそうになっている。
だから写真に写ったのだ。

僕は人の記憶を見ることができる。かといって自ら進んで見られるわけじゃないんだけど。
記憶がその人からこぼれ落ちる瞬間、僕はその断片を垣間見ることができる。
ただそれだけの能力だ。
みんなはその記憶のことを幽霊と呼んでいる。
でも、記憶はしょせん記憶だから、誰かに害を与えたりはしない。
どうして僕にそんな能力があるかは分からない。
僕の生まれてきた時のことが関係しているかも知れない。

「クライン」

お姉ちゃんが僕を呼びに来た。きっとご飯の時間なんだろう。
お姉ちゃんは暗い部屋をみるなり、急いで電気をつける。お姉ちゃんは暗闇が極端に嫌いだ。
明るくなってからもう一度本に目を落とす、するとふと変なものを見つけた。 

「お姉ちゃん、ここ変だと思わない?」
「思わない」

お姉ちゃんは本を見ずに言い捨てた。
いや別に幽霊がどうとか、記憶がどうとかそういうのじゃないんだけど……
僕が弁解する前に、お姉ちゃんは部屋を出ていった。
お姉ちゃんは幽霊とかの話が大嫌いだ。
僕が幽霊なんかいないよって言っても聞き入れてくれない。
それどころか、僕が科学的に幽霊を証明しようと誤解している、らしい。

それにしてもおかしいなぁ。僕は改めて思う。
さっきの写真の左端にレニーにそっくりな猫が写っているのだ。

「ただいま」

お姉ちゃんが帰ってきた。
変な人だ。
さっき、夕飯に呼びに来たくせに、自分はポストに手紙を出してくるといって、家を出てしまった。
三番目のポストじゃないといけないらしく、おかげで三十分もかかって帰ってきた。
なぜ三番目じゃないといけないかはよくわからない。

「お帰りなさい」
僕だけが声をかける。母さんはリビングでレニーと見つめ合っているからだ。
母さんがなぜ見つめ合っているかよくわからない。

僕はレニーと一緒にこの家に来た。
八年前のある朝、僕はレニーと一緒にこの家の前に捨てられていたそうだ。
レニーとクラインという名前は、カゴの中に入っていたプレートに書いてあったらしい。
ちょうどその日は流れ星が多く見られた日だったらしく、父さんは僕のことを宇宙からの贈り物だと信じている。
あながち嘘ではないかも知れない。

次の日、学校からお姉ちゃんが帰って来た時、手には手紙を持っていた。昨日出した手紙の返事が早速返ってきたらしい。

「クラインの出生の謎が解けるかもよ」

お姉ちゃんはうれしそうな声を上げる。一体手紙にはどんなことがかいてあるのだろう?

メール画面

さっき、部のメールアドレスにログインしたんです。

「最近メール見てないから100件は超えてるよね〜」

とか思ってたんですが、ここまで酷いとは……
こまめに確認しないとダメですね、やっぱり。

テレビの電源を入れると、ニュースをやっていた。たわいもない話から、事件や天気のことまで。
同じチャンネルに見飽きてしまったので、私は3のボタンを押す。
すると
寝袋から這いだし、移動の準備をする父を画面の端に見つけた。
でもいつものことだから気にとめず、私は台所の方に目をやった。
母はいつも通りてきぱきと料理を作る。
まるで機械のようだ。
もしかしたら母はもう機械になっていて、私や父や弟とは別の世界にいるのかも知れない。
機械から見るこの世界は、一体どうなっているんだろうか。

そんなことを考えている内に、朝食ができあがる。
いつものように席に着き、いつものように口に運ぶ。
何故こんなことを繰り返しているのだろう。

いつもはさほど意識しないのに、どうしても気になる。

何か言いたいことがあるわけでもないのに、ふと口を開く私がいた。声を息と一緒に飲み込み、下を向く。

こんなことに時間を割いている暇などない。

一瞬、そんな声が聞こえた。
でも、そんなのは気のせいだ。判らないけど、そう感じたからそうなんだろう。

「ただいま」
そう言って父が帰ってきた。
母は笑顔で夫である父を迎え入れる。

その空間が、少し私を覚醒させた。
さぁ、そろそろ学校に行かないと。

『一日利き手を使わないキャンペーン』の所為で
昨夜は日記を書くのに随分と手間取ってしまい
おかげで今朝はいつもよりもほんの少し朝寝坊をしてしまった。

欠伸を噛み殺しながら一階へ降りていくと
リビングのソファーには膝を抱えて、相変わらず心霊写真の本に見入っている弟の姿と
直立不動で、レニーとコンタクトを取っている母の姿が目に入る。
二人とも寝る前に見かけた姿と少しも変わっていないから、恐らく一晩中そうしていたんだろう。

「おはよう。」

母親の横を通り過ぎながら挨拶をすると
まず猫のレニーがこちらを見て、にゃあ、と可愛らしい返事を返した
それを合図として、母親も壁にかかっている時計を見上げる。

「あらもうこんな時間ね、朝ご飯作らないと。」

パタパタとスリッパの音を立てて台所に入っていく母親の後ろ姿を見送ると
私は真ん中に陣取る弟を押し退けて、ソファーに腰掛けた。

「お父さんは?」

「昨日、『たまには寝場所を変える』とか言って、寝袋担いで出て行ったけど。」

「ふうん。」

台所からベーコンと卵を焼く、いい匂いが漂ってくる
早速反応を見せ始めたお腹をさすると、私はテレビのリモコンを手に取った。

 世の中は謎に満ちあふれていると思う。
だから興味を持てるのだろうし、人間は生きてきたのだろう。
「パメラ、ご飯だからクライン呼んできて」
 思考(嗜好)を中断するようなタイミングで母が私に言った。
「はーい」
 言われるがままに弟の部屋に入る。
「クライン」
 弟は暗い部屋で何かを読んでいた。
彼は顔を上げてこちらを見る。
手にしたのは心霊写真の本で、
科学的に説明すべく日々彼は努力している、らしい。
「お姉ちゃん、ここ変だと思わない?」
「思わない」
 私はそういうのを見たくないので、さっさと切り捨てた。

 私の家族はみんな、どことなく変だと言われる。
だがそんなものは所詮他人の認識、誰も気にしていない。
夕飯の前に、私は手紙を出しに外へ出た。
 サンダルをつっかけ、3番目に近いポストへと向かった。
1番でも2番でも駄目なのだ。3番。私はこの数が好きだ。
 手紙を投函する。友人に宛てた薄っぺらい手紙。
ポストの前で合掌し、黙想。妄想ではなく。
 3分ほどそうした後、
晴れやかな気分になってスキップで家に帰ることにする。
サンダルがひたすら邪魔で、それを両手に持って。
周りの視線は、気にならない。私には見えない。

「お帰りなさい」
 そう言ったのはクラインで、母はダイニングにはいない。
何をしているのか見ると、リビングで猫と母が見つめ合っていた。
緊張した空気が辺りに漂い、誰にもその間に入ることは出来ない。
レニーは、母とじっと見合うことの出来る存在の内のひとつである。
因みに、もう一人は父である。
 ああなると半日は何も聞いて貰えない。
仕方なく、私は食卓に着いた。

 夕食をとってまもなく、電話がかかってきた。
「やあ」
 従兄弟のサイードだった。
「何」
「叫びたい」
「叫べば」
「エピフィルム・オクシペタルム!」
「……何、それ」
「月下美人のこと」
「ああ、そう」
「そうなの」
「気は済んだ?」
「それなりに」
「じゃあ切るわよ」
「どうぞ」
 ガチャン。

 父が帰ってきた。
てのひらばかり眺めて、ただいまも言わない。
何をやっているのかは誰も聞かない。
その内、話すものだから。
「やっぱり、これだよ。これ。結婚線。
いやあ、やっぱり俺は運がいいなあ」
 誰も聞いていないのに、話し続ける。
母は猫と熱い視線を交わしているし、
弟は心霊写真の本しか見ていない。
私はひとり、一日利き手を使わないキャンペーンを始めたところで
父に構っている暇などなかった。
「しかもね、押すと肩こりに効くんだよ、ここ。
ねえ、聞いている、リーリア?」
 母が応えるはずもない。

 こんなに普通の家なのに、誰もが変わっていると言う。
それはおかしい。まだこれは、ほんの日常なのだ。

書き込んでみたり。(苦笑)

最近坂上さんと運営(?)するHPをテキストで手打ちで頑張っています。(苦笑)
フリーのエディター使えよ

あと、ATOKさんなのでさっきから誤字ばっかりです。
(テキスト=適すとだし、使えよ=仕えよだし)
やったね、ATOKさん。
君は誤変換の王者だ。(疲れてる)