見上げたオブジェは、リングと球体が一緒にねじり上げられたような形をしていた。
しかも、オブジェにはいくつかの四角い穴が開いている。
入れればいいのだろうか。
私は手帳のあるページを開いて、目の前にある入れ口に入れようとした。
どうしよう。これを入れてしまっていいのだろうか。
いや、いい。知ってしまったのだから。
やらずにはいられない、ここでいつまでも私を続けるのは自信がない。
ゆっくりと確実に、真っ白な手帳を入れ口に運ぶ。
「にゃあ」
一声鳴いて、レニーが私の手から手帳を奪った。
興味があるように匂いをかぎ、引っ掻いている。
白い紙に引っ掻き傷と汚れが付いていく。
レニーがもう一度くわえようとすると、紙が二三枚同時に破れた。
レニーはそのまま一番低いところにある入れ口に、紙を突っ込んだ。
レニーは私の前から消えた。クラインと同じように。
そしてオブジェまでもが薄くなり、触れることが出来なくなった。
深くため息をつくと、しつこくロシア紅茶の香りがした。
少し懐かしくなった。
私は手帳を拾って、少しめくってみた。
一つの写真がそこに映っていた。
どこか見覚えのある写真。
あのとき、ほんのちらりとだけ見たクラインの本。
左端にレニーがいる。
レニーはあそこへ行ったらしい。
そういえば、映っているものはどことなく見覚えがあるような気がする。
私は少し歩いた。
いつの間にか、私は家に帰り着いていた。
手を伸ばし、ドアのノブを回そうとしてふと手を止めた。
今から「一日利き手を使わないキャンペーン」をしよう。
私は逆の手でノブを回した。
家の中は、出てきたときよりもずいぶん静かだった。
父も母も家にはいない。もちろん弟も。
私は自分の部屋に向かうため、階段を上った。
何も変わらなかった。
壁も床も、おそらくは付いている汚れさえさっきと同じだろう。
私は私の部屋の前に立った。
私の部屋のドアには、私の知らない切れ込みが入っていた。
私は手帳を取り出した。
あらためて、見てみても何もかかれてはいない。
写真を見てみようと数ページめくった。
ふと視線に入ったのは、床に落ちている写真。
もう取る必要もないのだと、なぜかそう感じた。
今度はためらうこともなく、白紙のページを開いて切り込みに差し込んだ。
カチリと音がして、勝手に戸が開いた。
私は部屋に入った。
そこにはいつもと変わらない私の部屋があった。
窓を開けて、ふと思いついた。
友達に手紙を書こう。
私は二番目のポストでないと落ち着かない。
部屋を出ると足下に、手帳を見つけた。
少しだけめくると、真っ白なページの中に二三枚傷の入った部分を見つけた。
私は弟にあげようと思い、ドアをノックした。
「クライン」
階下で母の声がした。
父がそれに答えている。
弟は小さなオブジェを手に、部屋から出てきた。
「お姉ちゃん、ちょっと失敗したみたいだからもう一回やり直さなきゃ」
ドアの向こうにいくつかの粘土の塊が見えた。
ともかく私は手紙を出しに行きたかった。
手紙には、クラインが考えた謎の言葉がつづってある。
